大正六年三月二十六日午前七時頃、岡山県久米郡より十一人のお遍路が参詣、本堂で読経の後、その中の十九歳の娘が帰り鐘をつこうとした。すると急に髪の毛が鐘の緒に巻きつき、全身が震え、歯をくいしばる。同行のお遍路は驚き、住職はご本尊に祈願した。
やがて三時間後に娘は意識を取り戻し、両親にことの次第を打ち明けた。それによれば、娘は巡拝中に盗みの罪を犯したのであった。両親は娘の言葉を聞いて頭を垂れ、実は父親もかつて盗みの罪を犯したと告白する。
親子ともども真心こめて御本尊に懺悔し、大師の戒めの厳しさに深く反省し、その髪は当山に奉納された。そして親の因果が報いとなって現われることを知る。
当山では「鐘の緒の戒め拝観所」を開き、巡拝者は申し込めば拝観することが出来、巡拝者の言動に警鐘を与える関所になっている。